名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)3558号 判決
〔判決理由〕
亡とめが、本件事故による受傷の治療のため、右事故当日ただちに服部共生病院で応急処置を受けたうえ、同日夜中部労災病院に入院し、昭和四四年二月七日退院後も同年四月二一日まで同病院に通院したことおよび同人が同年九月九日縊死自殺を遂げたことはいずれも当事者間に争いがなく、右事実に<証拠略>を総合すれば、とめは、本件事故前は、老来、高血圧症に罹つていたほかには、著患を知らず、心身ともに健康であつたが、右事故により前記認定のとおり頭部外傷、左下腿骨々折の傷害を受け、前記のとおり入・通院して加療に努め、右通院をやめた後も原告横井立夫の許などで療養を続けた結果、昭和四四年六月一一日、頭重感、頭痛、ふらつき、立ちくらみなど局部に頑固な神経症状がある頭部外傷後遺症(労働者災害補償保険法所定の後遺障害等級別の第一二級に該当)を残して右傷害は治癒し、同年七月中旬ごろには左下腿の骨折部は松葉杖に頼つて歩行できるまでに回復したこと、しかしながら、とめの頭痛等の頭部外傷後遺症状は頑固で、夏期に入るや、そのことから不眠状態が続き、ひいては食欲不振に陥つてとめの身体の衰弱が激しくなり、遂には立居振舞いも一時は満足にならず、用便にも難儀する有様となつたこと、そして、とめは、このようにあたかも不具者同様に、原告横井立秀の家人などに用便の世話までさせて迷惑をかけざるを得ないのを大いに苦にしていたこと、以上のとおりの事情からとめは生きる楽しみを失つて前記日に右原告方で自殺するに至つたことが認められ、右認定を左右するに足りる適当な証拠はなく、そうだとすると、およそ交通事故による受傷の苦痛から被害者が自殺することは右事故から通常生ずる結果と解し難いから、本件事故ととめの死亡の間にいわゆる条件関係が存することは否定できないけれども、両者の間に相当因果関係があるものと認めることはできない。
(岡林利男)